2022年に公開された、池松壮亮×伊藤沙莉出演の映画
「ちょっと思い出しただけ」
その名の通り、以前付き合っていた男女が、過去をちょっと思い出す物語。
照生(池松壮亮)の誕生日を、1年ずつさかのぼっていき展開していきます。
さかのぼっていくので、たくさんの伏線が散りばめられています。
その伏線を探すのもまた楽しい。
過去に戻りたいとか、マイナスな感情を呼び起こされるわけではなく、前向きに終わってくれるのでさわやかな感覚になります。
過去も、今の自分につながっている大切な一部。
切ないけれど、過去を温かく振り返られる作品です。
ここでは、散りばめられた伏線を解説してみたいと思います。
「ちょっと思い出しただけ」あらすじ
2021年7月26日、照生(池松壮亮)の34歳の誕生日。
舞台の照明スタッフの照生は、いつも通りの1人の朝を迎えた。
照明の仕事は、先輩に任せてもらえるぐらい慣れた手つきになっていた。
一方で、タクシードライバーの葉(伊藤沙莉)は、あるミュージシャン(尾崎世界観)を乗せて夜の街を走っていた。
ミュージシャンにトイレに行きたいと言われ、とある劇場にタクシーを停める。
ふいに覗いた誰もいない舞台で、一人の男性スタッフが踊っている。
よく見るとそれは、3年ほど前に別れた照生だった。
葉はこれをきっかけに、照生とのことを思い出していく。
1年ごとにさかのぼってく7月26日の思い出は、切なく、苦しく、浮足立っていて、とてもキラキラしていた。
決して戻ることのない、2人のいとおしい日々をちょっと思い出しただけーーーー
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「ちょっと思い出しただけ」予告編
「ちょっと思い出しただけ」時系列
伏線に入る前に、頭を整理するために時系列を作ってみました。
※ネタバレしますので注意。
2015年7月26日 ‹出会い› | ・舞台の打ち上げで、葉と照生が出会う。 ・商店街で2人で踊る。 ・路上弾き語りをしているバンドマン。 |
2016年7月26日 ‹告白› | ・微妙な関係の葉と照生。 ・雨の中、公園のおじさんの妻を探す。 ・公園のおじさん「ようやく会えました」 ・照生のバイト先の水族館にずぶぬれで押しかける葉。 ・タクシーの中で葉に告白する照生。 |
2017年7月26日 ‹ラブラブ期› | ・葉が照生にバレッタをプレゼント。 ・写真立ての前には思い出の巻き笛が。 ・休館日の水族館でデート。 ・屋上で花火。 ・2人で部屋で「ナイトオンザプラネット」鑑賞。 ・照生「来年の誕生日プロポーズしよ」 |
2018年7月26日 ‹別れ› | ・照生が足をケガして踊れない。 ・葉に2週間連絡していない照生。 ・タクシーの中で葉と照生がケンカ。 ・水族館モチーフのケーキを照生1人で食べる。 (その後しばらくして2人は別れたと思われる。) |
2019年7月26日 | ・偶然部屋の奥からバレッタを見つける照生。 ・照生は髪をバッサリ切る。 ・照生は照明の仕事をしている。 ・バンドマンに「どっかで会ったことありませんか」と聞く照生。 ・コンパに参加する葉。 ・葉は康太と出会う。 ・ラインのアイコンを2人で飼ってた猫から違うものに変える葉。 |
2020年7月26日 | ・リモートで仕事をする照生。 ・コロナで客がなかなかとれないタクシー業界。 |
2021年7月26日 | ・誕生日前日に、過去に葉と見た映画を1人で見る照生。 ・公園のおじさん「(妻が)来るんです、未来から」 ・偶然、葉は照生を見かける。 |
2021年7月27日 | ・行きつけのバーでお祝いをしてもらう照生。 ・青信号を笑顔で走る葉。 ・葉は康太との赤ちゃんがいた。 ・ケーキをつい買ってしまった葉。 |
「ちょっと思い出しただけ」伏線の解説
「ちょっと思い出しただけ」は、過去にどんどんさかのぼっていく物語なので、伏線がとてもたくさん散りばめられています。
「これはあの時のあれかぁ」「これはこういう意味だったのね」なんて思うことがとてもたくさんです。
この伏線のおかげで、2回目鑑賞のほうがとても面白かったし、感傷にも浸れました。
※ネタバレしますので、見てから読むことをお勧めします。
お地蔵様
2021年現在、朝、道端のお地蔵様に手を合わせている照生。
これは2人が付き合っていた2017年当初からしている習慣です。
2人で手を合わせていたのに、2021年の今は1人で手を合わせています。
もしかしたら葉が始めた習慣かもしれないと想像してしまいますね。
足にケガをした2018年の描写では、お地蔵様に手を合わせていない照生。
部屋も荒れていたので、足のケガによって心も荒れていたことがわかります。
「どっかで会ったことあります?」
2019年、照明の仕事をしていている照生。
ライブのリハーサルをしていたバンドマン(尾崎世界観)に「どっかで会ったことあります?」と声をかけます。
バンドマンは首をかしげ、照生も思い出せずにいます。
しかし仕事後の帰り道、商店街でニヤけながら歩いている照生。
どこかで会ったことあると思ったバンドマンは、葉と出会った日(2015年)に2人で歩いた商店街の路上で弾き語りをしていた彼だと気づいたのです。
2021年には、バンドマンのほうから「どっかで会ったことあります?」と聞かれます。
「はい、何度か」と答える照生。
2015年の商店街、2019年の照明の仕事の時に会っているんですね。
バレッタ
2019年、猫のいたずらで偶然部屋で見つけたバレッタ。
このバレッタは、2017年の葉から照生への誕生日プレゼントでした。
照生はこのバレッタを美容院に持ち込んで、長かった髪を切ります。
2018年に別れたのであろう、葉のことも吹っ切るけじめで髪を切ったのかもしれません。
「僕、一生幸せにするんで」
2019年、照生が髪を切った一方で、葉はコンパに参加します。
そこで他のコンパに参加していた康太に出会います。
康太は照生と違って思ったことをちゃんと口に出す男性。
関係を持った葉に「僕、一生幸せにするんで」と言います。
一方照生は過去に「来年の誕生日プロポーズしよ」とつぶやくも、葉にしっかりとは伝えず、葉の追及にもはっきりとは答えません。
康太と照生の差をあからさまに表した描写でした。
「あなた、映画スターにならない?」
真面目に話し合おうとする葉に、「あなた、映画スターにならない?」と急に話をはぐらかしてくる照生。
葉はこのセリフを無視して、真面目な話の続きをします。
これは、2人が好きな映画のとあるシーンのセリフでした。
以前、2人でタクシーに乗っている時にふざけあいながらこのセリフの言い合いをしていたのです。
照生が話をはぐらかしたくて関係ない話をしていることが、葉の怒りを余計に大きくしているようにも思えます。
離婚したタクシーの客
2018年、照生と葉がケンカした後、酔っ払いの3人の客が乗ってきます。
このうちの1人は、今日離婚したといいます。
この離婚した男性は、照生が住む前の部屋に2015年に奥さんらしき人と住んでいた男性でした。
水族館モチーフのケーキ
2018年の照生の誕生日、2人はケンカしていました。
その時葉が用意していたケーキは、水族館モチーフのケーキでした。
プレートには「てるおくんファイト」の文字が。
ケンカしてしまったので、照生が一人で食べることに。
なんとも切ない場面です。
後からわかりますが、水族館は2人が付き合うきっかけになった思い出の場所なんですよね。
それもまた切ない。
写真立ての前の巻き笛
2017年、2人がラブラブだった時期。
写真立ての前には緑色の巻き笛が置かれています。
これは2016年の照生の誕生日に葉があげたものでした。
巻き笛の横に置かれている誕生日カードも、2016年にあげようとしたお菓子とお花につけられていたものです。
葉が嫉妬して捨てた花と、やけ食いしたお菓子は照生の手には渡らなかったのかもしれないけど、カードはちゃんと渡せたのだとほっこりするところでもあります。
「言わなくても伝わることあるだろし」
2017年の照生の誕生日、2人がとても順調だったときに照生が言ったセリフです。
「言わなくても伝わることもあるだろうし」
それに対して葉は「言わなきゃ伝わんないよ」と答えています。
軽い会話だったので、ケンカになることもなかったのですが。
付き合う前にも葉は照生に
「(心の声を)あんたはもうちょい出しなさいよ」
と言っています。
初めはあまり気にならなかった不満も、別れ際になると大きな不満として出てきます。
2018年の別れる直前の会話でも葉は
「何に怒ってるか言わないとわかんないよ」
と言い、なかなか思ってることを言わずただただ怒っている照生に
「会話になんねぇ」
と葉はキレています。
そしてきわめつけは葉の言葉。
「ずっと会話になんてなってなかったのかもね、ずっと」
このセリフは2度目見返すと特によくわかるんですが、確かに2人は会話になっていない部分が多いのです。
「ようやく会えました」
2020年、公園のベンチで妻を待っている男性。
掃除のおばさまたちに煙たがられながら
「もうすぐ来るんで、妻が。来るんです、未来から」
と話します。
これは、物語を最後まで見ればわかります。
照生と葉との思い出の振り返りは過去へどんどんさかのぼっているのに対し、この男性は過去へさかのぼることが未来へ行くというカラクリになっているのです。
2016年に、雨の中葉が男性の奥さんを探したシーン。
奥さんを見つけた男性は
「ようやく会えました」
と言います。
時系列が逆になっていることに、少し変な感覚になります。
でも照生と葉とは反対で、一途な愛を貫いた男性の結末がハッピーエンドのような錯覚(実際は死別しているのでハッピーエンドではない)が起き、どこか救われた気持ちになりました。
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「ちょっと思い出しただけ」感想
前情報なく見たので、「え、どういうこと?」と思いながら物語は進み、「あ、過去に1年ずつさかのぼっているのね!」と途中でわかった1回目鑑賞でした。
カラクリを理解しながらの鑑賞だったので、見落としていた伏線も多かったです。
なので、2回目のほうが1回目より気づきがあって楽しめた気がします。
元カレ、元カノがいる方にはより一層感情移入できるのではないかと。
それに、葉と照生はお互い好きなのに別れてしまったので、余計に切なくなってしまいます。
誰しも、元カノ元カレのことをちょっと思い出しちゃうときってありますよね。
照生と葉のような、ちょっと遠いけどまあまあ最近の、3年ぐらい前ならなおさら。
戻りたいとか、また付き合いたいとかそういう感情じゃなくって。
あの時楽しかったな、あの時苦しかったな、あんな恥ずかしいことよく言えたな苦笑、とか。
本当に「ちょっと思い出しただけ」。
でもあの頃の感情になって感傷に浸っちゃう。
葉は、今はすでに子供もいて、今想い合っている旦那さんがいる。
ただちょっとしたきっかけで、ちょっと振り返って感傷に浸っただけ。
思わずケーキを買っちゃっただけ。
そんな過去を思い出しちゃった日。
今の言葉を借りるならエモい、のかもしれません。
戻りたいわけじゃないことは、ラスト近くのシーンで、信号がきれいに青に変わって葉が笑顔でタクシーを進めるシーンでもわかります。
前に進んでいるっていう気持ちが伝わります。
今日だけちょっと振り返っちゃったね、そんな感覚なのだと思います。
過去の自分があって、今の自分がいる。
そうも思わせてくれる映画でした。
過去の恋愛で感傷に浸りたい方は必見かもしれません。
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「ちょっと思い出しただけ」作品概要
クリープハイプの尾崎世界観さんが作曲した「ナイトオンザプラネット」から触発され、松井大吾監督が完全オリジナルラブストーリーを執筆した作品。
第34回東京国際映画祭では観客賞を受賞した。
キャスト
佐伯照生 | 池松壮亮 |
野原葉 | 伊藤沙莉 |
泉美 | 河合優実 |
さつき | 大関れいか |
康太 | 屋敷裕政(ニューヨーク) |
ミュージシャンの男 | 尾崎世界観 |
牧田 | 市川実和子 |
中井戸 | 國村隼 |
ジュン | 永瀬正敏 |
スタッフ
監督・脚本 | 松居大悟 |
撮影 | 塩谷大樹 |
照明 | 藤井勇 |
主題歌 | クリープハイプ「ナイトオンザプラネット」 |
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