2023年に公開された杉咲花主演の映画
「市子」
杉咲花さんの存在感がものすごい。
本当に市子として生きてきているんじゃないかってぐらい「市子」でした。
市子の過去を追っていくにつれてだんだんと謎が明らかになっていくので、最後まで目が離せません。
見終わるのがあっという間でした。
ラストシーンは明確に映されてないので、どうなったのか気になる人も多かったようです。
気になったことや、ラストなどを考察していきたいと思います。
「市子」あらすじ
川辺市子(杉咲 花)は、3年間一緒に暮らしてきた恋人の長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズを受けた翌日に、突然失踪。
途⽅に暮れる⻑⾕川の元に訪れたのは、市⼦を捜しているという刑事・後藤(宇野祥平)。
後藤は、⻑⾕川の⽬の前に市子の写真を差し出し「この女性は誰なのでしょうか。」と尋ねる。
市子の行方を追って、昔の友人や幼馴染、高校時代の同級生…と、これまで彼女と関わりがあった人々から証言を得ていく長谷川は、かつての市子が違う名前を名乗っていたことを知る。
そんな中、長谷川は部屋で一枚の写真を発見し、その裏に書かれた住所を訪ねることに。
捜索を続けるうちに長谷川は、彼女が生きてきた壮絶な過去と真実を知ることになる。
引用:「市子」公式HP
↓「市子」はAmazonプライムビデオにて見放題配信中↓
「市子」感想・考察(ネタバレあり)

見終わった後に、何が正解で何が間違っているのかが一瞬わからなくなってしまうような感覚を覚えました。
自分が自分として生きていくことが、市子にとってはこんなにも茨の道なのかとやるせない気持ちになります。
個人的に気になったことなどを考察していきたいと思います。
※以下からネタバレありなので、映画を見てからの閲覧をおすすめします。
月子と市子は誰の子?

市子と月子は姉妹だけど、父親は違います。
じゃあそれぞれの父親は誰なのか、物語の本題ではないのですがいったん確認します。
市子が小学生から高校生の時に家に出入りしていた男、小泉。
彼はソーシャルワーカーです。
ソーシャルワーカーとは、福祉や医療などの分野で問題や悩みを抱えている人の相談や支援を行う仕事です。
小泉は母親なつみの恋人。
相談したり支援をするうちに付き合うことになったのでしょう。
彼は月子や市子の父親ではありません。
市子が小学生の時に、なつみが働いていたバーのママが言っていました。
「一人目の夫はDV男。」
「二人目の夫は借金まみれ。」
おそらく一人目のDV夫との子供が、市子。
二人目の借金夫との子供が、月子です。
そしてそんな話をしていたバーのカウンターで、宿題をする市子の隣に座っていた男が小泉でした。
離婚後300日の間にできた子供は戸籍上、前夫との子供とみなされるそうです。
そのため、前DV夫に知られるのが怖くて、むつみが市子を無戸籍で育てることにしたと予想できます。
市子を無戸籍にしてしまうことで、市子の人生が狂ってしまうとも気づかずに。
童謡「にじ」の意味

この作品の中で、童謡の「にじ」はとても印象に残るものでした。
すごく良い歌で、私の子供たちも小さい頃よく歌っていた記憶があります。
ところが。
この映画を見終わったあとの「にじ」の印象ときたら。
もう同じ気持ちで聴けなくなってしまいました。
「にじ」は市子が月子を殺してしまったあとに、母のむつみが歌っていた歌です。
市子が月子を殺してしまったのを見つけたむつみは、「ありがとう」と市子にひとこと。
そして「にじ」を歌いながら洗い物をし始めます。
「ありがとう」って‥。
怖いですね。
ただこの台詞は、むつみの限界の心が読み取れた台詞でもありました。
「お母さん、うち‥」と市子がむつみに何か話しかけるのですが、むつみは振り返りもせずに「にじ」を歌い続けるのです。
母を見つめる市子は無表情でしたが、計り知れない孤独感や罪悪感や恐怖があったことでしょう。
そんな感情の中、母は話を聞こうとせず鼻歌を歌っている。
母も母で、心を落ち着けるために、自分のために、歌っていたのかもしれません。
市子はそんな母の鼻歌を聴いて何を思っていたのでしょう。
その歌を聴いて、必死に孤独感や罪悪感や恐怖を消そうとしていたのかもしれません。
感情を殺すことを学んでしまったのかもしれません。
ラストに、市子が北と冬子を殺し、「にじ」を歌いながらひとり歩いているシーンがあります。
このシーンは作品の最初にもあったシーンでしたね。
ここで伏線回収となるわけです。
市子にとって「にじ」は、殺人の後の歌。
孤独や罪悪感、恐怖を消し、生きていくための歌なのかもしれません。
「にじ」の歌詞にもあるように「きっと明日はいい天気」と、自分の罪を忘れ明日への生を願う歌なのかもしれません。
ラストはどうなった?

ラストは、見ている人に結末を想像させるような終わり方でした。
テレビで流れた「海から引き上げた車内に、20代男女の遺体が発見された」というニュース。
市子が海から遠ざかる道をひとりで歩いていること。
このことから、さっきまで市子と一緒にいた北と冬子が、遺体の2人だとわかります。
そして市子が鼻歌を歌いながら道を歩いているということは、市子が2人を殺したということも想像できます。
市子は、身寄りがない自殺願望のある冬子を殺しました。
そしてこれからは冬子の戸籍をもらい、冬子として生きていくと決めたのでしょう。
そして北は、市子にとって多くを知りすぎた人物です。
これから冬子として生きて行くのに邪魔だったのでしょう。
働いているケーキ屋まで押しかけて、過去を忘れて生きていくことを否定してきた北です。
市子のことを、北が「悪魔」と言ったのも決定的だったのかもしれません。
市子が高校生の時に、小泉を殺す直前に小泉にも「悪魔」と言われています。
殺人への引き金になった可能性も否定できないでしょう。
市子の動機はわかるとして、北自身は死ぬことに抵抗はなかったのかという疑問も残ります。
北は望まず無理矢理殺されてしまったのか、市子に頼まれて死を受け入れて死んだのか。
北の死の直前の様子は映されておらず、観客への想像に任されています。
なので、明確な答えはありませんが、私は北は死を受け入れて死んでしまったと予想しています。
「川辺は俺が守ったるから」
「川辺のヒーローになる想像してたし」
「俺にしか守られへんから」
「俺はどうしたらええねん!」
今まで市子に言ってきた北の台詞です。
完全に市子に依存して、「市子を守る俺」が生きがいになっています。
冷めた表情で「ありがとう」と市子に突き放される北は切なかったですね‥苦笑
「俺はどうしたらええねん」と市子に迫るほどの北。
きっと北は市子に、「うちのヒーローなんやろ」「うちを守るために死んでほしい」など、あのまっすぐな瞳で言われたのかもしれません。
北は市子のヒーローになれるならと、死を受け入れたのではないでしょうか。
最後までむくわれない北に、なんとも言えない感情がわきました。
エンドロールでの会話

エンドロールでは、家族で何やら団らんしているような会話が聞こえました。
市子がずっとカバンに持っていた、誕生日の写真の時の会話です。
音声が聞き取りづらいので、少しここで紹介します。
小泉「今日で市子はいくつになったん?」
むつみ「7歳」
市子「10歳」
小泉「ええやん、うちのなかだけやねんから」
引用:映画「市子」
小泉とも楽しく談笑しながら、誕生日に食事をしているようです。
むつみが偽っている嘘の年齢を言うのですが、市子が10歳と訂正します。
小泉がこのとき、本当の年齢を肯定しています。
笑い合って話せるほど、まだ事は深刻になっていない時です。
この中に無戸籍の子供がいるなんて想像もできないくらい明るい雰囲気です。
むつみ「どう?おいしい?」
市子「おいしい」
むつみ「ほんま?ほんまかぁ?」
小泉「おいしいなぁ」
笑い声
むつみ「なんや月子、何がおもろいんや」
小泉「ケーキ楽しみやなぁ」
むつみ「何のケーキでしょう」
引用:映画「市子」
月子とも楽しく食事ができています。
筋ジストロフィー症は、10歳までは自分の力でも歩くことができる方が多いそうです。
月子もきっとまだ楽しく家族と食事を囲むことができているんですね。
ケーキを楽しみにしている、楽しい誕生日です。
この後、市子に戸籍がないことでどんどん状況が悪い方へ向かっていくのかと思うと、この楽しい食事がものすごく切ないものに感じます。
この作品で、DV、無戸籍、ヤングケアラー、様々な現代の問題を突きつけられました。
してしまった事(4人の殺人)は許されないことですが、壮絶な環境の中でも必死に生きようとする市子の姿はまぶしくもありました。
杉咲花さんの市子、必見です。
↓「市子」はAmazonプライムビデオにて見放題配信中↓
「市子」作品概要
原作は「川辺市子のために」という、劇団チーズtheaterの舞台作品。
この映画の監督である戸田彬弘氏が主催している劇団です。
第47回日本アカデミー賞 | 優秀主演女優賞(杉咲花) |
第78回毎日映画コンクール | 女優主演賞(杉咲花) |
第37回高崎映画祭 | 最優秀助演俳優賞(中村ゆり) 監督賞ノミネート(戸田彬弘) |
第46回ヨコハマ映画祭 | 主演女優賞(杉咲花) |
「市子」キャスト
川辺市子 | 杉咲花 |
長谷川義則 | 若葉竜也 |
北秀和 | 森永悠希 |
小泉雅雄 | 渡辺大知 |
川辺なつみ | 中村ゆり |
後藤(刑事) | 宇野祥平 |
吉田キキ | 中田青渚 |
「市子」スタッフ
監督 | 戸田彬弘 |
脚本 | 上村奈帆 |
原作 | 舞台『川辺市子のために』 |
↓「市子」はAmazonプライムビデオにて見放題配信中↓
コメント